朝三暮四
中国古典の現代訳本を読んでいると世界の軍隊の幹部が読んでいると解説がありました。 近代装備の先進国軍隊司令官からアルカイダのようなゲリラ組織の幹部まで読んでいて、国籍も問わないそうです。
私も読んだことはありますが、なかなか日常業務に応用できていません。
私が懇意にさせて頂いている経営者の方で、大変スマートで誠実な方が自らの従業員の処遇を巡り、『朝三暮四』を引き合いに出しました。
その人の行う事業に従事する職員の一般的賃金水準は決して高くありません。 従事する人は解っていても賃金に対する不満はついて回ります。 デスクワークが多い仕事で、基本給、残業代の支給、休暇・休日制度の運用、すべて適法に処理されておられます。 年収に換算すると決して高くなく、それが相場でありながら不満を持つようです。
経営者の方は考えて基本給をさらに下げる代わりに残業代を厳格に支払うことを約束されたようです。 そのことについてタイトルの『朝三暮四』を引き合いに出されました。
中国の故事でお猿をたくさん飼っていた人がエサ代に困り、餌である木の実を朝に三つ、夕方四つ与えるとお猿に言うと、お猿が少ないと怒ったそうです。 そこで飼い主の老人は『では朝に四つ、夕方三つではどうか』というとお猿は大変喜んだということです。
飼い主の老人は一日の木の実は七つで変わらないのにと思ったことでしょう。 しかしお猿の立場で見ると事情は少し変わってきます。 お猿の餌と人の賃金を同列に考えるのは少し不謹慎ですが、仕事の難易度は個々に違いがあり、残業を必要とするものとサクッと仕上げる仕事があります。 難易度の高い仕事で残業して仕上げれば残業はきちっと評価される、しかし平均すれば個々の職員に振り分けられる仕事は経験に応じてバランスを保たれるわけですから、ほとんど残業が発生しないよう工夫されてています。 経営者はそこまで配慮しているので個々の作業について残業して完成させることに意味を見出さなかったのでしょう。
世の中には同様の現象が多くあり、当社においても営業職の初任給で話題になります。 当社の営業職の初任給は低くく設定されていて、他業種と比較して見劣りします。 もちろん介護事業は制度ビジネスで、国が事業における利幅を厳格にコントロールしていますから、同業も賃金は決して高くありません。
当社の報酬における基本的な考え方は相場と会社への貢献度合いで決めるものとしていますから、営業職が会社に利益貢献すると十分な報酬を支払っています。 少なくとも業界内比較ではかなり高い方だと思います。 募集をかけても見劣りするので応募者が集まりません。 そこで初任給をあげてはどうかと意見がたびたび出てきます。
人件費総額は変えられませんから同然高い報酬を得ている人から報酬の低い人に付け替えることになります。 これでは平等を目指して逆不公平になります。 少なくとも今働いている人は望まぬ方策になります。
それでも初任給を高くして優秀な人が集まり、会社全体として効率化が図られれると人件費総額を大きくする事が出来て人件費増を吸収できるという考えもあります。 もちろんその可能性を否定できませんが、私は次の二つの考えから反対しています。
一つは目先の賃金水準を職業選択の基準にしている人は将来ベテランになったときに期待する賃金水準が低いと不満が募ることになります。 制度ビジネスは大きく景況が変化する可能性が低く、安定している業界なので、その保険料から賃金は低いという考えも成り立ちます。 そもそも職業選択ということであれば自らの適性を選択基準にすべきで、生活できない水準でなければ目先の賃金は無視してはと思います。
二つ目は職業というとプロフェッショナルですから、貢献が収入の基礎であり、貢献の多寡にかかわらず勤続年数などで報酬が決まる割合は出来るだけ排除したいと思うからです。 民間企業は利益がなければ消滅するだけですから、当然の考え方と思います。
成果を正当に評価してほしい、つまりやったらやっただけ収入が増えることを良しとする意見は面接時によく聞きますが、そのような意見の人が成果を出せず、昇給しなかったときに真っ先に転職に走るのを見ているとかなか考えを変える事が出来ません。