安藤忠雄氏の講演会に行ってきました。 建築の世界に関心がない私でもよく聞く名前で、日本経済新聞の『私の履歴書』にも連載され、面白く読みました。
記事の中で有名になってから多くの知己を得る中で、「安藤は危険な人物だ」と噂されたことです。 新聞への寄稿はいろいろチェックが入るので安藤氏の毒舌は出ていませんでしたが、『危険』の一言は印象に残りました。 そもそも『私の履歴書』に登場する人は大会社の社長経験者でなおかつ業界を動かしたような大物という印象でしたので、建築家の氏は違和感がありました。
講演では話し言葉ですので氏も自分の言葉で話されました。 それが毒舌とは思いませんでしたが、内容については言いにくい話を多く含んでいたし、新鮮でもあったのでいくつか紹介します。
氏は高卒ですが学歴コンプレックスを持っているわけではありません。 氏の事務所の設計士は世界の一流大学から集まってこられます。 また氏は7年間、東大の教授を勤められました。 そのときのエピソードで、文部科学大臣に呼ばれ、東大の教授の就任要請を受けたときに「給料はいくらか」と大臣に聞かれたそうです。 民間からの国立大学教授の賃金は基本給に賞をいくつ受賞したかで決まるそうですが、氏の場合1400万円だったそうです。 氏は「俺を1400万円で雇えると思うのか」と言ったそうです。
設計事務所の社長をやっているわけですからそれが0になるのでそんな給料ではとてもやれないと思われたそうです。 さらに近しい人に相談し、公務員など止めておけと言われたそうです。 しかし文科大臣から給料の値上げ打診があり、東大の教授を7年されました。
安藤氏は知力やセンスは講演の中でも強調されますが、学歴のないことや学歴の重要性については触れられません。 ただし知識や知力の重要性でエピソードを話されました。
「私は中学が最終学歴ですが、雇ってもらえますか?」と問い合わせが多く、断っておられるそうです。 理由として国際化が進んできていて、職員にも日本人以外が多く、その中でコミュニケーションすらとれないというのがその理由だそうです。
学歴は問わないが学力はしっかり問うよということでしょうか。 私も同じ考えで募集要項に学歴不問としています。 しかし薬剤師に応募してきた人が「高卒でもよいですか?」と質問を受けたときには唖然としました。 今なら六年制の薬学部を卒業して薬剤師の国家検定の受験資格を得るわけですから。
氏の事務所の職員が梅田で交通事故に遭い、道端に倒れていたそうです。 通行人が駆け寄って助けようとし、顔を見て「あ! 外人や」といって放っていったそうです。 氏の現場は現在欧米を始め、中国、アジアに分散しています。 氏にとって日常は外国です。 日本だけ「あ! 外人や」では取り残されるよという話でした。
東北の震災で両親を失った子供たちの育英基金を作ろうとされ、寄付を募られました。 全国各地で講演し、一人1万円を毎年10年寄付するというものです。 中には毎年高額の寄付を申し出られたり、80歳代の女性が途中で死ねば10年続けられないといった問い合わせがあったりしたそうです。 企業もハウスメーカーは家を1軒売れば千円寄付するという約束を取り付けられました。 氏いわく「寄付をしなければ講演会で悪口を言われると思ったのでしょう」、つまり講演会で実名入りの悪口を言うことが評判で、氏の影響力は大きいと言うことです。 この話で一番つらく思ったことは「大阪ではこの講演会をしない」と言うものでした。 大阪の講演会で寄付を申し出る人が極端に少ないそうです。 「大阪はもう終わっています、仕事もないし・・・そのうち、日本にそんな町があったことすら忘れられるでしょう」と手厳しかったことです。
氏は建築家ですが、世界中を飛び歩いていて比較する上で大阪の評価は的を得ていたのでしょう。 ほかにも面白い話題が満載で、一見纏まりのないないようでしたが、センスの光る話でした。