長らくご無沙汰していました。
私は会社の代表を20年弱、代表を降りて3年、取締役の寿命も67歳になって終わろうとしていた今年の春に零細企業の子会社を担当しろと拝命し、半年従事してきました。
経験のない製造業、知見のないシール印刷というニッチな分野の会社です。 私を入れて10人の会社、私を除いて全員善良で気持ちの良い人たちです。
人間関係で問題となることはなく、仕事の9割以上がある会社の孫請けです。 不安がいっぱいですが、その仕事を逃すわけにゆかず、恐る恐る新規の仕事を探しています。 営業は営業部長に任せ私はやることが無いので社内の半端仕事をやっています。 見張っているだけでよい機会のオペレーションや掃除・片付け、そして皆の話を聞くことです。
最近異業種からやってきた私のような年寄りに話を聞いてほしいと思う人がいるもので、ちょっと驚きでした。 はじめは若い職員がどんな社長か当たり障りのない質問を出してきます。
社員が私のことを知るより早く不足人員を採用し、残業を減らし、休暇がとれるようにしたので私がどんな人間かおよそわかったようです。 職員が初めに知りたかったのは経営者が変わって条件の悪化を心配したようです。 安心すると今度はどんな人間かに関心が移ります。 反対に私は立場上彼らのことを知りたいので彼らを質問攻めにします。
私が若い時、と言っても30歳を過ぎてからですが、自分の存在価値を自分自身で知るため他者の欠点や仕事の隙間を探して埋めることに注力し、自分の存在価値に自己満足していました。 競争の激しい業界の製品機能のようなもので、炊飯ジャーなら電熱加温からIH、別の会社は加圧釜など機能構造を付加し、お米を炊くだけの道具を10万円を超える製品に仕上げました。 千円で買ったステンレス鍋とガスコンロで壊れることなく何十年もお米は炊けるのですが、自分の生き方はこの炊飯ジャーの製品開発と同じ様なものでした。
会社の代表になったときは採用した職員と話し、仕事の面白さを伝えることでその人のパーフォーマンスが劇的に上がったりするのが私のモチベーションでした。 しかしパーフォーマンスの上がった人は単独の業務範囲でパーフォーマンスを上げていて彼・彼女の周囲の人に影響を与えないばかりか依怙贔屓をしているという批判まで出てきました。
それが代表を降りる前の話です。 今の会社に来て朝礼で表明した初心は1+1が3になることを考えてほしいでした。 製造業なので印刷原紙のセットを習熟することで材料ロスを減らし、セット時間を短縮できて一石二鳥をイメージしました。
皆は私の初心を聞いているのかいないのか判りませんでしたが、作業時間が短くなり、不良品が減り、製品検査の時間が大幅に減りました。 程度においてその改善は目を見張るものでした。 それが残業時間や休日出勤をなくすほどの効果を上げました。
次に朝礼で言った目標は各人の多能工化でした。 仕事は繁忙の落差が大きく、その中でも工程間の繁忙がずれて生じます。 工程が3あれば1工程にかかっているときは2,3工程の担当は仕事がありません。 1工程が終わると2工程だけが忙しくなり、1工程の担当は仕事がなくなります。 私が行ったのは単純な話ですが以前はそれを考えることなく、納期前には最終工程の人が深夜まで作業をしていたそうです。
私が伝えた2つの改善は協業の効果を上げるものです。 協業は良好な人間関係を必要とすると信じていました。 はじめ書いたようにこの会社の職員の方の人柄がよいから協業が成果につながったと評価しました。
しかし別の会社では人間関係ではなく個人の責任感、仕事の習熟と適切な管理システムが協業を成功させると考えている経営に直面しました。 自分の職務範囲が明確で、責任感をもって計画された期間内に各人の仕事が期待された完成基準で完成していれば組織運営は最高のパーフォーマンスを上げるというものです。 とはいえトラブルも起こり、指定された期間内に計画通り各人の仕事が完了するとは限りません。 そこで一番重要な管理ツールは進捗管理表です。 ある部署では大型のホワイトボードに各業務の進捗が書かれ、ある部署ではスケジュール管理表が共有ホルダーに設定されています。 相変わらず孤立して仕事をする人は共有ホルダーに予定を書きません。
この組織運営では部署の飲み会、食事会、職員間の私的なコミュニケーションは減ってゆきます。 かなりの割合で在宅勤務を行うようになり、職員間の電話の情報交換や調整はメールにとってかわられます。 残念ながら人はメンタルケアを必要とし、この組織運営の方法でどのようにその部分を解決するのか芳しい事例は見当たりません。 各人の専門スキルが際立って高く、評価も厳格で報酬も高い組織においてはうまく運営されるのかなと思います。 どちらにしても組織運営の方法は私が初めて社会人になったころは時代劇の大名の社会と変わらないように今にしては思います。 数年のうちにメンタルケアなどの問題も対処できるようになり、今までにない会社運営が行われ、旧態の会社は退場していくと思います。