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求人と賃金水準

今朝の日本経済新聞に『求人増でも賃金上がらず』という記事か出ていました。

日本では医療・介護分野で求人が増加しており、製造業などは減少しています。 4月のデータを下に比較すると5年前との対比で製造業では1050万人で107万人減少、医療・福祉では114万人増加し、705万人となっています。

一方平均賃金は、求人における一人当たりの平均賃金で見ると約27万円で横ばいだそうです。 02~10年の長期で平均賃金の傾向を見ると、医療・福祉は13%減少、製造業は雇用を13%減らしたが賃金は2%増加したそうです。

つまり雇用が拡大している分野で賃金が減少し、雇用が減少している分野で賃金が増加しているそうです。 新聞の解説では医療・福祉部門のパート比率は21%で製造業の2倍であることが原因だそうです。 パートの平均給与は正社員の48%、同じような傾向が見られる欧米ではパート職胎生期職員の賃金比率はスイス96%、ドイツ74%、日本でパート職は女性が多く、扶養控除所得103万円の制約があるからパート職の正社員対比の賃金比率が低いと分析しています。

いつもこのような記事を読むと「何かおかしい」と感じるのですが、出典のデータも分析そのものも正しいと思います。 違和感を感じるのは正社員の賃金、企業規模における賃金階層性でしょうか。 製造業で賃金が上昇しているのは製造業の企業規模が大きく、大企業ほど利益構造が良いからで、製造業の企業規模別で賃金実額を比較すれば中小企業の製造業従事者の賃金水準は相当低いものになるでしょう。 この部分の正確な統計が無いらしいです。

大企業と中小企業の力関係の善悪を話題にするつもりはありませんが、日本の企業規模間の構造がそのようになっているということです。

一方医療・介護分野では厚生労働省がサービスの対価と大枠のビジネスモデルを法律で決めているので、その中で大雑把に言って上位1/3程度が黒字であるような設定になっていると思います。 もちろんそのサービスが安定期に入ってからの話で、新規に事業が開始されたときは甘い設定になっています。

例えば医者が在宅に往診に行けば点数は高いものとなっており、医者はこの点数設定が開始されたときに『どうせ制度が定着すれば点数は下げられる』と判断していたようです。 多くのコンサルタントが研修会でそのように解説していました。

一方、処方箋調剤の点数は制度が安定期に入っており、いろいろな方法で作業負荷をかける一方で点数を巧妙に減らしていってます。 つまり医療・介護は事業所数からその収益性まで国がコントロールしているということです。 この部分の善悪に就いても話題にするつもりはありません。

面白いのは介護のコンサルタントが在宅医療のときのように『いずれ介護職は最低賃金程度まで下げられますよ』とは解説していないことです。 ただビジネスモデルが決まっているのでヘルパーステーションは苦しくなると通所系サービスや施設に走り、それを誘導するように新たな施設基準が設けられます。
そして施設が飽和すれば施設のサービス点数が下げられます。 先行して行えば利益が得られ、後発は厳しい基準を立ち上げ段階から強いられる一方収益性は低いものとなります。

最終的には雇用者の多くは最低賃金水準付近まで低下し、日本の医療・介護の賃金水準は上昇しません。 これらの一連の動きは政治的な判断とも連動し、強い圧力団体を持つ医者はさほど所得が低下しません。 TV等マスコミは制度のひずみを事例を元に指摘しますが、全国一律制度ではいくらでもひずみは発見できます。

国全体の経済として諸外国より長期に発展してきたわけですから、大筋での施策の成功は誰も否定できないでしょう。 では将来に向けて、厚生労働省の行っている社会主義的計画経済が有効か、というと少し疑問があります。 国全体として将来の産業・経済・社会のビジョンが出てきません。 今話題の維新の会など過去からの流れで大きく歪んでいる所を正そうとしているだけで、将来ビジョンはまだまだ過去のビジョンの延長にあると思います。

日本の文化は模倣の文化、真似できたことは真似されると思えばよく、日本の風土・文化に合った産業・経済構造ビジョンを新たに作れるかに国の発展は掛かっていると思います。

淀屋橋にアル東洋磁器美術館で今やっているマイセン展を見てきました。 驚いたことにマイセンで一番最初に作成された磁器は中国や日本の有田焼のコピーです。 1700年ころで、東インド会社から輸入されたものを模倣したようです。 有田焼のコピーはたくさん作られたようで、色使いや形に至るまで有田焼そのものです。
コピーの精度はさすがドイツ人といった感がありました。 その後100年位かけてドイツらしい磁器に変化し、現在では有田焼よりマイセンのほうが有名と思います。

社内研修のテキストで『サムスン式仕事の流儀』を読みましたが、私がかつて勤めていた商社の企業文化とかぶるものがたくさんありました。 有田焼の技術を習得するのにマイセンは100年程度かかり、日本の村社会を元にした会社文化はサムスンは数十年でマスターしました。 サムスンには日本の企業文化と製造技術を習得するため多くの日本人技術者を雇用したと思います。 個別技術だけでなく企業文化を導入し、徹底してブラッシュアップしたサムスンはパナソニック、ソニーに勝ちました。
パナソニック、ソニーが今までと同じ方法で戦うには、手の内をすべて知られている韓国企業に勝てるとは思えません。

国内の農業技術の変遷を見て見ると、大阪は農業先進地域です。 江戸時代では「大阪しろ菜」のような新商品が開発されています。 私が生まれた守口は「守口大根」という細長い大根が粕漬けとして作られ、現在は名古屋での名産となり、名古屋の製造者は「もともと名古屋で生まれた」と言っています。

昭和期では電照菊やハウスの電照イチゴ、ハウスみかんなどが開発され、各地に伝播してゆきました。 大阪が高度経済成長期以降、新しい産業の育成に成功しなかったことが大阪経済の衰退に繋がり、残った繊維、家電メーカーの衰退が止めを刺したということでしょうか。

新しい産業分野を生み続けられる風土や文化が経済発展の元と思います。

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